そわそわと、珍しくMrs.ジェファーソンのが腕時計をしきりに覗き込んでいるのに気が付いた。
滅多なことで雑談に応じないオバさんだけど、さすがにここのところガッツリ向かい合って勉強しているだけに、多少の事情は聞きだしている。
「…Mrs.ジェファーソン、今日の授業はここまでにしませんか?」
ギョッと見るオバさんの疚しそうな顔が珍しくて、笑いたくなった。
なんだ。
いつも冷たい無表情で、このオバさんに感情なんかあるのかと思ったりもするけど、けっこう可愛いところあるじゃない。
「後はこの例題を読み込んで、暗記するのが今日のメインだから、先生がいらっしゃらなくてもなんとかなります。と、いうか、一人の方が緊張しなくて憶えやすいかも」
少しの躊躇の後、それでもあたしが一人の方が憶えやすい、と言ったことで罪悪感が緩和したらしく、
「…わかりました。では、明日もう一度、このページから暗唱してもらいます」
チラッと微笑んだ顔が、嬉しそうでまたも笑いたくなってしまった。
いいよね。
いつもあたしには厳しいオバさんだけど、それでも自分の孫息子には優しいお祖母ちゃんなのに違いない。
ハッピーバースディ、ジェファーソン家の坊や!
心の中で祝福して、だからといってあたしの課題が減るわけじゃない。
やれやれ、眠くなりそうだよ、こりゃ。
やっと終わったと思った受験勉強再来に、今日もため息が洩れる。
「…ありがとうございます、お嬢様」
小さく照れ臭そうに呟かれた言葉に、振り返った時にはもうMrs.ジェファーソンいなかった。
やだ、なんだか嬉しい。
ようやく語学の課題を終え、中庭の長大な渡り廊下を歩いているとメイドさんたちが集まっているのが見えた。
このお邸の使用人たちはよほどしつけられているのか、使用人用の休憩室でもないと滅多に立ち話しているところを見かけない。
何してんだろう?
ここであたしが声かけたりしたらシラけるかな。
シラけるくらいならまだいいけど、叱咤されたと思われたら嫌だ。
と、あたし付きのメイドののりちゃんを見つけ、
「…ねえ、どうしたの?」
全員がバッと振り向き、予想していたのにちょっとたじろいだ。
あ、のりちゃんにこの間、陰口を言っていたシマちゃんこと鳥居志摩さんはメンバーにいなかったようで、少し危惧していたあたしはホッと小さく息をつく。
鳥居さんにはバレていないだろうけど、わざわざ陰口を言っていた人に声をかけるのはあたしでもちょっと勇気がいる。
キョトキョトっと珍しく挙動不審に動揺しているメイドさんたちの後ろで、にゃあっと小さく弱々しい声が鳴いた。
「あれ…子猫?」
滅多なことで雑談に応じないオバさんだけど、さすがにここのところガッツリ向かい合って勉強しているだけに、多少の事情は聞きだしている。
「…Mrs.ジェファーソン、今日の授業はここまでにしませんか?」
ギョッと見るオバさんの疚しそうな顔が珍しくて、笑いたくなった。
なんだ。
いつも冷たい無表情で、このオバさんに感情なんかあるのかと思ったりもするけど、けっこう可愛いところあるじゃない。
「後はこの例題を読み込んで、暗記するのが今日のメインだから、先生がいらっしゃらなくてもなんとかなります。と、いうか、一人の方が緊張しなくて憶えやすいかも」
少しの躊躇の後、それでもあたしが一人の方が憶えやすい、と言ったことで罪悪感が緩和したらしく、
「…わかりました。では、明日もう一度、このページから暗唱してもらいます」
チラッと微笑んだ顔が、嬉しそうでまたも笑いたくなってしまった。
いいよね。
いつもあたしには厳しいオバさんだけど、それでも自分の孫息子には優しいお祖母ちゃんなのに違いない。
ハッピーバースディ、ジェファーソン家の坊や!
心の中で祝福して、だからといってあたしの課題が減るわけじゃない。
やれやれ、眠くなりそうだよ、こりゃ。
やっと終わったと思った受験勉強再来に、今日もため息が洩れる。
「…ありがとうございます、お嬢様」
小さく照れ臭そうに呟かれた言葉に、振り返った時にはもうMrs.ジェファーソンいなかった。
やだ、なんだか嬉しい。
ようやく語学の課題を終え、中庭の長大な渡り廊下を歩いているとメイドさんたちが集まっているのが見えた。
このお邸の使用人たちはよほどしつけられているのか、使用人用の休憩室でもないと滅多に立ち話しているところを見かけない。
何してんだろう?
ここであたしが声かけたりしたらシラけるかな。
シラけるくらいならまだいいけど、叱咤されたと思われたら嫌だ。
と、あたし付きのメイドののりちゃんを見つけ、
「…ねえ、どうしたの?」
全員がバッと振り向き、予想していたのにちょっとたじろいだ。
あ、のりちゃんにこの間、陰口を言っていたシマちゃんこと鳥居志摩さんはメンバーにいなかったようで、少し危惧していたあたしはホッと小さく息をつく。
鳥居さんにはバレていないだろうけど、わざわざ陰口を言っていた人に声をかけるのはあたしでもちょっと勇気がいる。
キョトキョトっと珍しく挙動不審に動揺しているメイドさんたちの後ろで、にゃあっと小さく弱々しい声が鳴いた。
「あれ…子猫?」

