Eternal Dream~遥かなる愛と光~

和陽の姿は桜吹雪が邪魔をしているようではっきり見ることはできない。それでも、父親が柏手を打つ気配を感じたのだろう。友梨が驚いたような声を上げる。それに被さるように響く声。


「伏して、願い奉る。我が守護の神、我が声に従え……」


それは、神職である和陽がいつも唱える祝詞とは違っている。そのことに気が付いた友梨だが、和陽の言葉が最後まで続けられることはない。まるで彼の紡ぐ言葉を邪魔するかのように風が唸りを上げて、彼らのそばを吹き抜けていく。そして、その風に吹き飛ばされるかのような友梨の体。


「友梨!」
「海斗!」
「間に合わない!」


三者三様の叫びではあるが、それぞれが切羽詰まったものを含んだ声。そして、そんな声をかき消すかのように、風がゴーッと唸りを上げている。だが、そんな暴力的な風が吹いていたのは一瞬の間だけ。もっとも、その風が静まった時、その場にいるはずの一人がいないことに、海斗は茫然とすることしかできなかった。


「友梨! どこに行ったんだ?」


到底、目の前で起こったことが信じることができない海斗。今の彼ができることは、その場に青ざめた顔で駆け寄ってくる和陽に、疑問の声をぶつけることだけ。


「おじさん! さっきの風はなんだったんだ? あれだけの風が吹いてたのに、何も散らばってないなんて、おかしくない? それに、友梨はどこに行ったんだ? さっきまで一緒にいたはずなのに」

「海斗君……いろいろと話さないといけないことがあるのは間違いないんだ。でも、おじさんもちょっと混乱している。少しだけでもいいから、時間をくれないかな?」


海斗の容赦のない突っ込みに、和陽はひきつった表情でそう告げることしかできない。そして、そんな彼の言葉に海斗が納得できるはずもない。不満そうな表情を浮かべて、和陽の顔をみつめている。そんな挑発的ともいえる視線を向けられた相手は、諭すような口調で言葉を続けていく。


「海斗君の言いたいことや、思っていることは分かるよ」

「それなら……」

「でもね。おじさんが話さないといけないって思っていることは、簡単には信じることができないことなんだ。それに、今日は入学式だったよね。遅刻するなんて、恥ずかしいことはと思わないかい?」


そう言った和陽は地面に落ちていたカバンを拾い上げている。それは、間違いなく先ほどまで一緒にいた友梨が持っていたもの。そのことに気が付いた海斗はキュッと唇を噛んでいた。

たしかに、和陽の言葉は正論に聞える。だが、今の海斗はその言葉に素直に頷くことができない。彼は友梨の姿が消えたことに不安を抱きながら、問いかけ続けることしかできない。


「おじさんはそう言うけど……そりゃ、俺だって入学式に出席しないといけないのは分かっているけど……」


和陽の言葉に半ば説得されたかのように、海斗は視線を落としている。だが、次の瞬間にはガバッと頭を上げると、和陽のことを睨みつけるようにもしている。


「でも、そうは言っても、やっぱり気になるんだ。それに、おじさんは友梨が消えてしまったことに責任を感じているんじゃないのかな? だって、さっき『間に合わない』とか叫んでいなかった?」