走りながらそんな言葉を口にする友梨。だが、次の瞬間、今の時間を思い出したのだろう。慌てたような声が友梨の口から飛び出している。
「そ、そんなことより、もっと大事なことがあるじゃない!」
「そうだったか?」
「海斗のバカ! 入学式に遅刻しちゃうじゃない!」
友梨がそう叫んだ時である。フワリと風が動いたかと思うと『行かせないよ』という声が響く。その声に思わず足を止める友梨。そんな彼女の様子を海斗が不思議そうな顔でみつめている。
「友梨、どうかしたのか? マジで遅刻するぞ」
先ほどまでのやり取りから分かるように、友梨は今の時間を把握しているはず。それなのに、急に立ち止まってしまったことに海斗は不思議そうな表情を向けるだけ。そんな彼に思いもよらぬ言葉が返ってくる。
「う、うん……ねえ、海斗。さっき、声が聞えなかった?」
友梨のその声は、海斗にとって驚くものなのだろう。どこか間の抜けたような表情で、彼女の顔をみつめることしかできない。今の彼は入学式に遅刻するかもということよりも、友梨の言葉の方が気になってしまったというのが本音の部分なのだろう。
「ゆ、友梨……分かっていると思うが、ここには俺とお前しかいないんだぞ? だったら、こ声が聞えてくるなんてこと、起きるはずがないって簡単に分かるだろう?」
「海斗の言いたいことは分かるわよ。でも、さっき家を出る時にも感じたのよ。その時は声だけだったかもしれない。でも、今でも聞こえてくるような気がするって、どういう訳だと思う?」
どこか不安げな様子を浮かべた友梨がそう呟いている。今の彼女にとって入学式に遅刻するかもしれない、ということは些細なことになってしまっているようだった。その証拠に、脚は地面に縫いとめられたようになり、あたりをうかがうようにキョロキョロそすることしかできない。そんな友梨の様子を不安げな顔で見つめることしかできないのが海斗。とはいえ、今の彼にできることは一つだけ。そのことが分かっている海斗は大きく息を吐きながら友梨に問いかけている。
「友梨、ホントにどうしたんだ。それに、お前は声っていうけど、本当に聞こえたのか?」
海斗の声にしては珍しく、威圧するような気配も含まれている。そのことに気が付いてはいても、友梨は首を傾げながら応えることしかできない。
「うん……間違いなく聞こえたと思ったんだけどな。でも、海斗には聞えなかったのよね? ホント、理不尽沢だわ」
「たしかに友梨にしてみれば理不尽だろうな。でも、友梨は声が聞えたって言ってたけど、俺には何も聞えなかったんだぞ。それより、早く行かなくてもいいのか? 入学式には、遅刻したくないんだろう?」
「そりゃ、そうなんだけどね……」
促すようなな海斗の声にも、友梨の足は動こうとはしない。たしかに、学校へは行かないとダメだということは分かっている。だが、状況がいうことをきかないというような感覚。そのことに怯えたような表情を浮かべる友梨だが、状況が変わる気配は微塵もない。
「友梨、どうかしたのか? お前だって入学式に遅刻したくないんだろう? ほら」
そう言いながら、海斗は友梨の手を引いて歩き出そうとする。だが、それに反応するような雰囲気はない。一体、どうしたんだというように彼女の方を振り向いた時、ひときわ強い風が二人の間を吹き抜けていた。それを同時に、地の底から響くような音がする。
『やっとみつけた。こっちへおいで。早く。もう、時間がないんだから』
「そ、そんなことより、もっと大事なことがあるじゃない!」
「そうだったか?」
「海斗のバカ! 入学式に遅刻しちゃうじゃない!」
友梨がそう叫んだ時である。フワリと風が動いたかと思うと『行かせないよ』という声が響く。その声に思わず足を止める友梨。そんな彼女の様子を海斗が不思議そうな顔でみつめている。
「友梨、どうかしたのか? マジで遅刻するぞ」
先ほどまでのやり取りから分かるように、友梨は今の時間を把握しているはず。それなのに、急に立ち止まってしまったことに海斗は不思議そうな表情を向けるだけ。そんな彼に思いもよらぬ言葉が返ってくる。
「う、うん……ねえ、海斗。さっき、声が聞えなかった?」
友梨のその声は、海斗にとって驚くものなのだろう。どこか間の抜けたような表情で、彼女の顔をみつめることしかできない。今の彼は入学式に遅刻するかもということよりも、友梨の言葉の方が気になってしまったというのが本音の部分なのだろう。
「ゆ、友梨……分かっていると思うが、ここには俺とお前しかいないんだぞ? だったら、こ声が聞えてくるなんてこと、起きるはずがないって簡単に分かるだろう?」
「海斗の言いたいことは分かるわよ。でも、さっき家を出る時にも感じたのよ。その時は声だけだったかもしれない。でも、今でも聞こえてくるような気がするって、どういう訳だと思う?」
どこか不安げな様子を浮かべた友梨がそう呟いている。今の彼女にとって入学式に遅刻するかもしれない、ということは些細なことになってしまっているようだった。その証拠に、脚は地面に縫いとめられたようになり、あたりをうかがうようにキョロキョロそすることしかできない。そんな友梨の様子を不安げな顔で見つめることしかできないのが海斗。とはいえ、今の彼にできることは一つだけ。そのことが分かっている海斗は大きく息を吐きながら友梨に問いかけている。
「友梨、ホントにどうしたんだ。それに、お前は声っていうけど、本当に聞こえたのか?」
海斗の声にしては珍しく、威圧するような気配も含まれている。そのことに気が付いてはいても、友梨は首を傾げながら応えることしかできない。
「うん……間違いなく聞こえたと思ったんだけどな。でも、海斗には聞えなかったのよね? ホント、理不尽沢だわ」
「たしかに友梨にしてみれば理不尽だろうな。でも、友梨は声が聞えたって言ってたけど、俺には何も聞えなかったんだぞ。それより、早く行かなくてもいいのか? 入学式には、遅刻したくないんだろう?」
「そりゃ、そうなんだけどね……」
促すようなな海斗の声にも、友梨の足は動こうとはしない。たしかに、学校へは行かないとダメだということは分かっている。だが、状況がいうことをきかないというような感覚。そのことに怯えたような表情を浮かべる友梨だが、状況が変わる気配は微塵もない。
「友梨、どうかしたのか? お前だって入学式に遅刻したくないんだろう? ほら」
そう言いながら、海斗は友梨の手を引いて歩き出そうとする。だが、それに反応するような雰囲気はない。一体、どうしたんだというように彼女の方を振り向いた時、ひときわ強い風が二人の間を吹き抜けていた。それを同時に、地の底から響くような音がする。
『やっとみつけた。こっちへおいで。早く。もう、時間がないんだから』


