ゼーハーと息を切らしながら言い訳を口にする友梨。そんな彼女の頭をコツンと突いた海斗は、仕方がないな、というような視線を彼女に向けていた。そのまま、どこか呆れたような調子で言葉を続けていく。
「ま、仕方ないさ。友梨が遅くなった理由って分かってるし」
海斗のその言葉に、友梨は『ほえっ?』と情けない声を出すことしかできない。そんな彼女の頭がポンと叩かれる。
「ほら、うちのお袋もだけどさ。友梨ん家の親父さんも入学式には絶対行くとか叫んでなかったか? ホント、あの二人って傍迷惑な保護者ーズだよな。高校生にもなって、親子連れで入学式なんて抵抗あるんだってこと、理解してほしいよな」
どこか明後日の方を向きながらそう呟く海斗の声は、友梨の心の叫びそのものでもある。だからこそ、彼女はこくこくと首を振っている。もっとも、海斗が頭を叩いたことで無茶苦茶にしてしまった髪の毛のことで文句を言うことも忘れてはいない。
「そうよね~。やっぱり、海斗は分かってくれてるんだ。でも、それと人の髪の毛を、う着茶にするのとは別だと思うのよ? セットするのだって、結構な時間がかかっているのよ。私の苦労をどうしてくれるのよ」
「そうだったっけ? いつもと同じだから、気が付かなかった」
「海斗のイジワル! 入学式だし、気合入れてやったのに、台無しになったじゃない!」
時間をかけ、念入りにセットした髪をぐしゃぐしゃにされたことに怒り狂っている友梨。だが、当の海斗はそんなことを気にした様子もない。そんな彼の様子にまた腹を立てた友梨はプイっと横を向くとサッサと歩き出している。そんな彼女の腕をギュッとつかんだ海斗はそのまま友梨を引き寄せると、その紙の中に顔をうずめている。
「友梨、悪かったって。謝るから、機嫌治してくれよ。でもさ、そんなに可愛い友梨のこと、他のヤツに見せたくなかったんだよな」
「何、バカなこと言ってるのよ。ホントに調子が狂っちゃう。それより、早く行かないと遅刻しちゃうんじゃない? 入学式に遅れたなんてことになったら、お父さんに大笑いされちゃうんだから」
その言葉に、海斗も今の時間を思い出したのだろう。今度は友梨の腕を引っ張るようにして走り出している。そのまま、前方を向いたまま紡がれる言葉。
「なあ、友梨。高校の入学式の記念に今夜、夜桜でも見に行かないか?」
「夜桜? たしかに綺麗かも。でも、どうして今なの?」
「え? そりゃ、ちょっとそんな気分だったから?」
おどけたような調子ではあるが、そう言う海斗の耳がどこか赤くなっている。そう思う友梨だが、今はそんあことを気にしている時ではない。今の最重要事項は、入学式に遅刻しないということ。だというのに、突然、訳の分からないことを言い出すなんて。そう文句を言いたいのだが、今はそれをするのも時間の無駄に思える。だからこそ、彼女はどこかぶっきら棒な調子で応えることしかできない。
「夜桜に興味がないっていうのは嘘だけど、無理。何しろ、お父さんって朔(サク)と蝕(ショク)の時には外に出るなっって変なこと言うんだもん」
「朔って新月のことだったっけ? 友梨の親父さん、神主だけあって難しい言葉、知ってるんだな。でも、どうしてなんだ?」
「そんなこと私が知るわけないでしょう。というより、私だって訳が知りたいんだから。でも、いくら訊ねても教えてくれる気配すらないのよ。それどころか、何があっても朔の夜には出るなっていう一辺倒。そりゃ、新月の夜に外を出歩こうとは思わないけどね」
「ま、仕方ないさ。友梨が遅くなった理由って分かってるし」
海斗のその言葉に、友梨は『ほえっ?』と情けない声を出すことしかできない。そんな彼女の頭がポンと叩かれる。
「ほら、うちのお袋もだけどさ。友梨ん家の親父さんも入学式には絶対行くとか叫んでなかったか? ホント、あの二人って傍迷惑な保護者ーズだよな。高校生にもなって、親子連れで入学式なんて抵抗あるんだってこと、理解してほしいよな」
どこか明後日の方を向きながらそう呟く海斗の声は、友梨の心の叫びそのものでもある。だからこそ、彼女はこくこくと首を振っている。もっとも、海斗が頭を叩いたことで無茶苦茶にしてしまった髪の毛のことで文句を言うことも忘れてはいない。
「そうよね~。やっぱり、海斗は分かってくれてるんだ。でも、それと人の髪の毛を、う着茶にするのとは別だと思うのよ? セットするのだって、結構な時間がかかっているのよ。私の苦労をどうしてくれるのよ」
「そうだったっけ? いつもと同じだから、気が付かなかった」
「海斗のイジワル! 入学式だし、気合入れてやったのに、台無しになったじゃない!」
時間をかけ、念入りにセットした髪をぐしゃぐしゃにされたことに怒り狂っている友梨。だが、当の海斗はそんなことを気にした様子もない。そんな彼の様子にまた腹を立てた友梨はプイっと横を向くとサッサと歩き出している。そんな彼女の腕をギュッとつかんだ海斗はそのまま友梨を引き寄せると、その紙の中に顔をうずめている。
「友梨、悪かったって。謝るから、機嫌治してくれよ。でもさ、そんなに可愛い友梨のこと、他のヤツに見せたくなかったんだよな」
「何、バカなこと言ってるのよ。ホントに調子が狂っちゃう。それより、早く行かないと遅刻しちゃうんじゃない? 入学式に遅れたなんてことになったら、お父さんに大笑いされちゃうんだから」
その言葉に、海斗も今の時間を思い出したのだろう。今度は友梨の腕を引っ張るようにして走り出している。そのまま、前方を向いたまま紡がれる言葉。
「なあ、友梨。高校の入学式の記念に今夜、夜桜でも見に行かないか?」
「夜桜? たしかに綺麗かも。でも、どうして今なの?」
「え? そりゃ、ちょっとそんな気分だったから?」
おどけたような調子ではあるが、そう言う海斗の耳がどこか赤くなっている。そう思う友梨だが、今はそんあことを気にしている時ではない。今の最重要事項は、入学式に遅刻しないということ。だというのに、突然、訳の分からないことを言い出すなんて。そう文句を言いたいのだが、今はそれをするのも時間の無駄に思える。だからこそ、彼女はどこかぶっきら棒な調子で応えることしかできない。
「夜桜に興味がないっていうのは嘘だけど、無理。何しろ、お父さんって朔(サク)と蝕(ショク)の時には外に出るなっって変なこと言うんだもん」
「朔って新月のことだったっけ? 友梨の親父さん、神主だけあって難しい言葉、知ってるんだな。でも、どうしてなんだ?」
「そんなこと私が知るわけないでしょう。というより、私だって訳が知りたいんだから。でも、いくら訊ねても教えてくれる気配すらないのよ。それどころか、何があっても朔の夜には出るなっていう一辺倒。そりゃ、新月の夜に外を出歩こうとは思わないけどね」


