さり気なくカイトが話題を変えてきた。そのことにリオンも気が付いてはいるが、あえて触れようとはしない。今の彼はカイトが口にした『もっと重要なこと』の方に気持ちが傾いているのだろう。だからこそ、確かめるような言葉がその口からは飛び出している。
「ずい分と思わせぶりなことを言うんだな。封じの鍵が確定していないということよりも重要なことがあるのか?」
「はい。何よりもこの蝕で人々が怯えております。まずはそれを鎮めませんと」
カイトのその言葉は至極当然のこと。だからこそ、リオンも軽く頷いている。もっとも、カイトが己を見る視線が期待に満ちたものだということに気が付いた時、リオンの機嫌は一気に悪いものへと変わっていた。
「カイト、何か言いたいことがあるのか? 人々を鎮める役目は俺じゃないだろう」
お前の考えていることは分かっているぞ、というようにニヤリとあげられる口角。しかし、その言葉をぶつけられた方も簡単に引き下がることはない。こちらは穏やかな笑みを浮かべながら鋭く切り返してくる。
「おや、そのようにおっしゃいますか? 王陛下より不測の事態には檄を飛ばせと命じれ荒れていたのではございませんか? そして、今の蝕とつむじ風はまさしくそれに値するかと」
「それこそ詭弁だな。ま、今の事態を親父に報告しないといけないしな。その時、親父からそのように言われれば、やらざるをえないだろう。それより、お前たちは界渡りであるエリアルを失いたくないと思っていたんだよな」
突然、問いかけられた声に、カイトは体を強張らせている。それはなによりの肯定の返事。そして、そのことを知っているリオンはここぞとばかりに言葉をぶつけていく。
「やっぱりな。つまり、エリアルを鍵として認めないといったのは神ではなくお前たち自身だったということではないのか?」
「そのようなこと、あるはずがないでしょう。たしかに長老たちはそのようなことをやりかねないほどエリアル様に心酔しております。しかし、だからといって神の言葉を詐称すればどのようなことになるのかは、彼らが誰よりもよく知っております」
カイトのその返事にリオンはフンと鼻を鳴らすだけ。その態度は、彼の言葉を無条件で信じていないぞ、ということを示してもいる。そのまま歩き出そうとした彼だったが、ふと思い出したようにカイトに問いかけていた。
「それはそうと、珍妙な姿をした娘。そいつはどこにいる?」
「蝕の真っただ中で姿を現したわけですし、何かがあってはいけないということで、エリアル様が身柄を預かっておられます」
「ま、そのあたりが妥当か。親父にこのことを報告ついでに、その娘の様子もみておく。異論はないな」
リオンのその言葉にカイトは深々と頭を下げている。その姿にちょっと肩をすくめたリオンは改めてその場から離れようとしていた。
「しかし、蝕が突然に起こるというのも不思議なことだな。そして、その時に現れた娘。神はエリアルが鍵ではないといった。ということは、その娘が鍵となる存在だということなのだろうか?」
「どうなのでしょうか? たしかに、リオン様がおっしゃるとおり、蝕の真っただ中に姿を現したということで何かがあるかもとは思うのですが……しかし、代々、鍵となってきたのはわが巫の一族の者。となれば、どう考えても部外者のその娘がそれに値するとは到底、思えません」
カイトのその言葉にはリオンも頷かざるを得ないのだろう。そのまま、二人は黙りこくって部屋を出て行こうとする。その二人の前には蝕による暗闇が大きく広がり、唸りを上げる風が辺りの者を吹き飛ばしていく。そんな中、現れた娘が何をもたらすのか。そんなことをそれぞれが考えているともいえるようだった。
「ずい分と思わせぶりなことを言うんだな。封じの鍵が確定していないということよりも重要なことがあるのか?」
「はい。何よりもこの蝕で人々が怯えております。まずはそれを鎮めませんと」
カイトのその言葉は至極当然のこと。だからこそ、リオンも軽く頷いている。もっとも、カイトが己を見る視線が期待に満ちたものだということに気が付いた時、リオンの機嫌は一気に悪いものへと変わっていた。
「カイト、何か言いたいことがあるのか? 人々を鎮める役目は俺じゃないだろう」
お前の考えていることは分かっているぞ、というようにニヤリとあげられる口角。しかし、その言葉をぶつけられた方も簡単に引き下がることはない。こちらは穏やかな笑みを浮かべながら鋭く切り返してくる。
「おや、そのようにおっしゃいますか? 王陛下より不測の事態には檄を飛ばせと命じれ荒れていたのではございませんか? そして、今の蝕とつむじ風はまさしくそれに値するかと」
「それこそ詭弁だな。ま、今の事態を親父に報告しないといけないしな。その時、親父からそのように言われれば、やらざるをえないだろう。それより、お前たちは界渡りであるエリアルを失いたくないと思っていたんだよな」
突然、問いかけられた声に、カイトは体を強張らせている。それはなによりの肯定の返事。そして、そのことを知っているリオンはここぞとばかりに言葉をぶつけていく。
「やっぱりな。つまり、エリアルを鍵として認めないといったのは神ではなくお前たち自身だったということではないのか?」
「そのようなこと、あるはずがないでしょう。たしかに長老たちはそのようなことをやりかねないほどエリアル様に心酔しております。しかし、だからといって神の言葉を詐称すればどのようなことになるのかは、彼らが誰よりもよく知っております」
カイトのその返事にリオンはフンと鼻を鳴らすだけ。その態度は、彼の言葉を無条件で信じていないぞ、ということを示してもいる。そのまま歩き出そうとした彼だったが、ふと思い出したようにカイトに問いかけていた。
「それはそうと、珍妙な姿をした娘。そいつはどこにいる?」
「蝕の真っただ中で姿を現したわけですし、何かがあってはいけないということで、エリアル様が身柄を預かっておられます」
「ま、そのあたりが妥当か。親父にこのことを報告ついでに、その娘の様子もみておく。異論はないな」
リオンのその言葉にカイトは深々と頭を下げている。その姿にちょっと肩をすくめたリオンは改めてその場から離れようとしていた。
「しかし、蝕が突然に起こるというのも不思議なことだな。そして、その時に現れた娘。神はエリアルが鍵ではないといった。ということは、その娘が鍵となる存在だということなのだろうか?」
「どうなのでしょうか? たしかに、リオン様がおっしゃるとおり、蝕の真っただ中に姿を現したということで何かがあるかもとは思うのですが……しかし、代々、鍵となってきたのはわが巫の一族の者。となれば、どう考えても部外者のその娘がそれに値するとは到底、思えません」
カイトのその言葉にはリオンも頷かざるを得ないのだろう。そのまま、二人は黙りこくって部屋を出て行こうとする。その二人の前には蝕による暗闇が大きく広がり、唸りを上げる風が辺りの者を吹き飛ばしていく。そんな中、現れた娘が何をもたらすのか。そんなことをそれぞれが考えているともいえるようだった。


