ふわんとベッドシーツから漂う石けんの香りに目を閉じる。
「……ふう」
本当にシノノメさんはわからない。
名刺をくれて少しは好かれているのかと思いきや、電話は途中で切れる。心配してくれたときの頭のなで方。でも、電話で感じる彼の若干のいじわるさ。
港に出てきた蜃気楼のように、あるはずなのにそこにはない。どれが実物なのかわからない、つかみどころのない彼。
わからない。わからない。わからない。
彼の言動、態度、全ての意味がわからない。私は好かれているのか、それとも陰ではよく思われていないのか。
何一つわからなくて、もやもやして。考えるたびに新しい仮説が生まれていく。
最近の私は、シノノメさんに振り回されっぱなしだ……。
そこまで考えると、かあっと頬が熱くなるのを感じた。薄いシーツですら暑く感じて、なんだかおかしい。全身で感じるほどの心臓の脈打ち。ドクドクと大きな音を立てて動く。
シノノメさんを知りたい。もっと知りたい。今日話したプリンのことのような、知らなかった彼の一面をもっと見たい。
知りたい、知りたい、知りたい……!
彼の全てを知りたい。
彼の食べたもの、通った道、話した回数、好物、趣味……。興味は尽きない。
何よりも知りたいのは私をどう思っているか。
だから、本当はそこまで知らなくてもいい情報を集めていることにはなる。
だけど、その情報は彼を理解するためには必要ね。
私が彼を理解し、彼が私を理解してくれる。
これ以上に素晴らしいことなんてないんだから。



