ストーカー【感染】


「あ、あのっ! キョウコです」
「ああ、キョウコさんでしたか。こんばんは」
で、今日は何かありましたか? と、彼が言う。

まさか興味本意でかけました、なんて言えるはずもなく。
「えっと……ちょっと、また新しい被害に遭って」
つぎはぎだらけの、嘘をついた。

なんで嘘をついてしまったのだろう。別に私はシノノメさんに好意を寄せているわけでもない。だから、正直に言って迷惑に思われても構わないはずなのに。
……どうして、こんなに面倒くさい手を。

「もしもし、キョウコさん?」
「あ、はい。なんでしょうか」
「……本当に、新しい被害に遭われたのですか」
「えっ」

彼の鋭い問いかけに、肩が大きく跳ねる。
探っているかのように感じるけれど、実際は私の嘘に気づいているような口調。

「はい。被害に遭いました」
「……本当なのですね?」
「本当ですって」

私がそう言うと、彼は携帯の奥で軽く咳払いをした。

「……では、何故そんなに落ち着いて話していられるのですか」


彼の言葉のメスが、私の嘘を開いていく気がした。