一通目。
 びりびりと音をたてて、封筒の頭を破る。

 二つ折りにされた二枚の手紙が、封筒に入っていた。
背中に漂う寒気を感じながらも、おそるおそる開く。大丈夫、大丈夫。わざわざストーカーなら自分の名前を明かしてこないって。

「えっと……拝啓、キョウコ様」
 男性の字とは思えないほどの字の美しさに、思わず声を出して手紙を読む。

「昨夜は大丈夫でしたか。倒れていらっしゃったので家まで送り届けましたが、痛いところはなかったでしょうか。貴女の胸元のネームプレートに名字が書いてあったものですから、名字にあてはまる近辺の家を探しました。

 話は変わるのですが、倒れていたときに貴女がひどく汗ばんでいたことが気がかりです。何かあったのですか?

 近日、そちらに伺わせていただきます。そのときに元気な姿が拝見できればいいのですが。安静にしてくださいね。

シノノメ カズマ……」

 そうか。だからおばあちゃんはシノノメさんにお礼を言ってたんだ。
 シノノメさんのおかげで、私は家に帰ることができた。ストーカーに連れ去られずにすんだ。シノノメさんに知らないうちに助けられていたんだ……。

 本当に、シノノメさんは優しい人だと思った。それと同時にあのとき叩いてしまった後悔の念が、いっそう強くなる。

「でも、まだわからないんだ」
 あのとき追いかけてきたストーカーがシノノメさんで、私が倒れたときに優しい仮面をかぶって私を助けたのかもしれない。

 優しさを感じる度に、疑いは出てくる。
 シノノメさんがストーカーなのか。そうでないのか。そのことばかりが私の頭のなかに渦巻いている。