「時雨様から伝言だ。『私の部屋に来るように』とのことだ。」



氷は、何かを絞り出すように言った。






「どういうことだ。」

「族長の任をそろそろ任そうと思っている。そういうことだろ。」

「いきなりだな。」

「時雨様にとっては前々から考えていたことらしい。」

「だろうな。」

「お前は…なんとも思わないのか?」

「何について?」

「部屋から出れることについて。」

「早いような気がする。」

「だけ?」

「だけだ。」

「…そうか。時雨様にとっては喜ばしいことだがな。」



冬牙は返事の代わりに立ち上がった。






何かを期待していたわけではない。

あえて今の気持ちに名前をつけるとしたら、





(それは多分、サミシイ。)







楽しそうに雪原を走り回る幼い冬牙が、俺の横を走り抜けて行ったような気がした。