「えなの、好きな人だから」
「……え……?」
わたしの、好きな人だから?
その言葉の意味は、いったい。
聞きたい、けど期待を裏切られるのがこわい。そんな思いが問いかけをためらわせた。
その時、ガラッと勢いよく開く背後のドア。
「いた!シロー!!」
「わっ!」
「ひゃあっ!」
そこから姿を現したのは3年A組の担任・まだ20代の若い先生・三村先生。確か、シローせんぱいの担任だ。
三村先生はシローせんぱいの姿をみつけると、息をぜえぜえとさせながらこちらへ駆け寄りその首根っこを掴む。
「お前またみんなで中庭バレーやったうえに校長室の窓ガラス割っただろ!」
「あれは俺じゃなくて宮田が……」
「連帯責任!!来い!!」
そして昨日の寺田先生とわたしのごとく、シローせんぱいは三村先生にズルズルと連行されていった。
三村先生、大変だなぁ……。
苦笑いで見送ると、ひとり残ったその場で自分の手を見た。
シローせんぱいが、つないだ手。
『えなの好きな人、だから』
その言葉の意味は、なんですか?
知りたいのに、知りたくない。臆病なのに、熱い体。



