「プッ…!」

吹き出す声がして笑い出す。
何が可笑しいのか分からず、そろっと目を開けた。

「お前…緊張しすぎ!」

苦しそうに身をよじっている。こんな風に人をからかうのはいつもの事だ。

「もうっ!何なのよ…!」

つい怒る。上がり症の私を思ってした事だと、ちゃんと分かってはいたけど。


「賑やかね」

開け放していた戸口から、ノハラのお母さんの声がした。
驚いて振り向き、彼が言い返した。

「なんだよ。いきなり来て」

照れ隠しのような言い方。お母さんは顔色も変えず、わざと素知らぬ様子で返事した。

「晩ご飯だから呼びに来ただけよ。岩月さん、今晩は」
「こ…今晩は…お邪魔してます…」

この一週間、毎日植物の世話をしに来る私を、きっと知っている。でも、その事には何も触れずにいてくれた。

「お邪魔なのは私だったみたいね…あっ、今夜お鍋なの。良かったら一緒に食べていかない?」
「えっ…あ、あの…」

急なお誘い。思わず尻込みした。

「す…すみません…今夜は遅くなると言ってないので…」

電話一本かければいい事だけど、やっぱり急には難しい。

「そう…?じゃあまた次にでもゆっくりね」
「は…はい、ありがとうございます…」

赤面しながらお礼を言うと、お母さんはニコニコしながら温室を出て行った。
それを確実に見送ってから、ノハラが振り返った。

「焦った…」

ボソッと一言息をつく。その意味が分からずに顔を見た。

「お袋は、オレの中学の頃の片思いを知ってるから、いろいろ喧しいんだよ」

私が水道のことを尋ねて以来、何かにつけ、からかわれていたらしい。

「しかもばあちゃんまで一緒になって…」

呆れたように言う。
自分の知らない所で、そんな風に話題に上がっていたなんて…。

(なんか…恥ずかしい…)

改めて照れる。顔が赤くなってくる気がしてさっと俯いた。

「花穂…」

ノハラの呼びかけにも答えられない。
やっぱりどうにも緊張する…。

「オレの誕生日、クリスマスだから覚えとけよ」
「へっ…⁈ 」

いきなりな言葉に驚いた。
顔を上げると、ニッと笑われた。

「12月25日」
「あっ…」

なるほど。そういう事か…。

「忘れんなよ。プレゼント!」

明るく催促。やっぱりノハラはノハラだ…。

背を向け、温室の戸口に向かって歩き出す。慌てて追いかけて行きながら、彼に声をかけた。

「何が欲しいの⁈ プレゼント」

振り向きながら、電灯のスイッチに手をかける。

カチッ…

真っ暗になった温室の中で、彼が私を抱き寄せた。

「花穂がいい…」

優しく、耳元で囁く。その声に、身体が震えた…。

「側にいてくれたらそれでいい。他には何もいらない…」


お互いが大事な存在だと気づいた時から、私達の関係は単なる同級生でなくなった…。
それを今、改めて感じた…。

「ノハラが…好き…」

背中に手を伸ばし、彼に触れる。
この温かさを、二度と、手放したくない…。

「花穂…」

抱き締める腕に力が込もる。
その力強さを、いつまでも感じていたかった…。

「出るぞ」

腕の力が緩み、身体が離れていく。
がっかりした私の顔に、彼の顔が重なった。



タバコの香りがする

優しいキスは

心の中を幸せで満たしてくれたーーー……