し…んと静かになる。
温室で二人きりなのは初めてでもないのに、なんだかとても気恥ずかしかった。

「花穂…」

呼びかけるノハラの声が、優しすぎて胸がいっぱいになる。
声を出そうにも、上がってしまって何も言えない…。

「お前…」

近寄る顔にドキドキが増す。
どうすればいいか分からなくなって、ごくっと息を呑んだ。

「……お前、土産買って来いって言ったよな⁈ 」

(えっ…⁈ )

「買って来たから取って来る。待ってろ」

(えっ…⁈ えっ…⁈ )

唖然とする私を置いて温室を出て行く。その後ろ姿を目で追った。

「な…何なの⁈ …一体…」

確かにお土産よろしくとは言ったけど、何もこのタイミングで取りに行かなくても…。

「まぁ…ちょっと、助かったけど…」

緊張のあまり、ものも言えないでいたから丁度良かった。
でもきっと、すぐに戻って来る。その時どんな顔をすればいいのか…。

(やばい…返って緊張する…)

落ち着きを取り戻そうと、ガジュマルの鉢の前に立った。
無言で立ち竦むその樹が、萌さんのように思えた。

(…私でいい…?)

彼の夢枕に何度も現れる程、ノハラを恋い焦がれていた彼女のことを考えた。
自分が彼女の立場なら、きっといつまでも忘れないでいて欲しいと思う。
この間はノハラにあんな偉そうなことを言ったけれど、実際はどうなのか、萌さん自身にしか分からない…。

(でも、私…ノハラが好き…)

言い出せていない言葉を彼女(ガジュマル)に告げて、振り返った。
ノハラの走って来る足音が、聞こえて来たから…。

ガタンッ‼︎

大きな音ともに温室の戸が開いて、走り込んで来る。

「何もそんな…走って来なくても…」

駆け寄って来る彼を見て呟くと、抱き寄せるように腕が伸びてきて驚いた。

ビクッ!と肩が上がる。
ノハラの手からシャラン…と音がして、小さな紅い石の様な物が胸元に垂れた…。

(……?)

ユラユラと鍵状の物が揺れている。首元に回された手が離れ、シルバーのチェーンが見えた。

(ネックレス…?)

綺麗な紅色をした石の様な物は、静かな輝きを放っていた…。

「それ、ピンク珊瑚って言うんだ。花穂、三月生まれだろ。誕生石なんだって」

息を切らしながら説明する。その声の主を見上げた。

「私の誕生日…覚えてるの…?」

こっちはノハラの誕生日も何も知らないのに…。

「覚えてるさ。中学の頃、花穂が好きだったって言ったろ」

いろんな事が知りたくて、ちょっかいを出していた。誕生日も、何気ない会話の中から知った。

「そうだったんだ…」

初めて知る事実に、驚きと戸惑いが入り混じる。
胸元に光るピンクの光が、まるで赤面した自分のようにも思えた。

「…ありがとう…。こんなマトモな物貰えると思わなかったから…嬉しい…」

紅い宝石を掌に乗せた。
綺麗に磨き上げられた石の光で、心の奥まで温かくなるような気がした…。

「花穂…」

名前を呼ぶ彼を見上げる。近寄って来る顔にビクつき、思わずギュッと目を閉じた。