(何してるんだろ…)

何かをじっと見つめている。
その視線の先にある物が知りたくて、後ろから顔を覗かせた。

(ガジュマル…?)

鉢に入った高さ1mくらいの樹を、渋い顔で見つめている。その横顔が神妙だった…。

(何?…この樹、病気か何かなの…?)

気になって、ノハラと樹を見比べた。

「……ノハラ?」

声をかけたけど、返事がない。
聞こえなかったのかと思い直し、もう一度、呼んでみた。

「ノハラ、どうしたの?」

ビクッと揺れた身体が振り向いた。

「…なんだ…花穂か…」

急に表情が和らぐ。
おかしな感じがして、ちらっと後ろの樹を見やった。

「これ…ガジュマル…だよね?」

葉の形からしてそうだよね…と言うと、ああそうだ…と返事があり、その場を離れた。


「何しに来たんだよ」

仕事を始めるノハラが、無愛想に言った。
いつもと違う雰囲気に、言ってもいいのかどうか、少し迷った。

「……佐野さんから…フルで働かないかって言われて、そうする事にしたから一応報告に。ノハラが紹介者だから…」

ひょっとしたら、喜んでくれるんじゃないかと思っていた。
でも、ノハラの態度は素っ気なかった。

「へぇ…そうか…」

どうでもいいような感じ。
なんだか自分のとった行動がおかしい気がしてきて、急に恥ずかしくなった。

「帰る…」

ノハラの横顔を見て呟いた。
止めもしない彼に、プイと背中を向けた。

鉢を横切り、温室の戸口まで来る。
いつもなら見送りに来る筈のノハラも、この時ばかりは来なかった。

「さいなら!」

声をかけて、外に出た。
庭ではおばあちゃんが、花の手入れを続けていた。