マイクの前に立つと、会場中の視線が集まった。
それを見ないように、必死で下を向いた。

「平井君、砂緒里さん、本日はおめでとうございます…。友人を代表して、懐かしい思い出を話したいと思います…」

マイクを通して流れる自分の声が震えているのが分かった。紙を持つ手もブルブルと震えている。
息を吐き、肩に力を入れたまま、散々繰り返して来た文章を読み始めた。

「平井君との思い出は、小学校三年生の頃の、犬にまつわるものです…」

捨て犬を見捨てられない位、優しい少年だった。その優しさで、今日まで砂緒里を支え続けて来てくれた…。
これからも、どうか、そんな人でいて欲しい…そう願いながら語った…。

「砂緒里とは…中学を卒業してからも、ずっと交流がありました…。中学の卒業式の日、インフルエンザで欠席した彼女に、お見舞いの花束を持って行くと、後から自宅に電話がかかって来て、二人で泣きながら約束をしたのを覚えています。高校は違うけど、何でも相談し合おうね…って、そう約束したよね……?」

泣きそうな顔で砂緒里が頷いた。それを見て、少し緊張が解れた。

「でも、つい最近まで砂緒里は平井君との事を内緒にしていて…少しショックでした…余程、彼が大事だったんだな…と、後からしみじみ思った次第です…。これからも、その気持ちを忘れずにいて欲しい…。けど、今後はもっといろんな事を話したり、相談できる間柄でいたいと思います。平井君とケンカしたら、是非、私を頼って来てください。待っています」

涙を拭きながら、砂緒里がコクコクと首を縦に振った。そこでノハラの番になった。

「オレは、陽介と砂緒里さんに、友人として大事なことを三つ、約束して欲しいと思います…」

堂々と話すノハラの声を耳にして、そう言えば彼のスピーチは、今日初めて聞くんだったと思い出した。
改めて顔を上げると、彼の視線は二人の方を向いていた。

「一つ目は、ケンカしたら直ぐに謝ること。花穂を頼るのは、その後にして欲しいと思います。それから二つ目は、お互いの悪い所を外で話さないこと。惚気にしか聞こえません。そして、一番忘れて欲しくないのは、今日という大事な日があったことです…」

表情の見えないノハラの言葉を耳で追いながら、フワついた頭で思い出していた…。

厚と暮らしていた頃、素直に謝れなくて、ケンカばかりを繰り返してた事があった。
お互い、妙に慣れてしまって、謝らなくても許して貰えると、何処か勘違いをしていた…。

(あの時…素直に謝ってさえいれば、今の私達はなかったのかな…)

ふと、そんな事を考えた…。