泣きながら、

誰もいない、車も走らない、

住宅街の道を通り抜け、辿り着いた駅ーー


足早で、一歩も休まずに歩いたから、

息は切れ…

そのせいで、涙は一時、止まっていた……。


本当なら……

今頃はあの人の腕の中で、

その温もりに包まれて、

眠っている予定だった…。


でも…

それは、私だけが描いていた


………幻想…



「花穂…俺達、別れよう……」

バレンタインデーの前日、言い放たれた彼の言葉は、
料理をする私の手を止めた…。


「何…言ってるの…?」

今、そこで「おかえり」と迎えたばかりなのに、
何の冗談なのかと、聞きたくなった。


けれど……


「ごめん…付き合ってた女に子供が出来たんだ…。俺の子…なんだ…」

厚の言葉に、全身の力が抜けた…。

へなへな…と座り込む私に、追い討ちはかけられた…。

「俺の物、全部捨てていいから。ここにある物、全部、花穂の好きにしていいから」


私の返事、聞きもしないで…

私の顔、見向きもしないで…

出て行った……。

「サヨナラ」も言わないで……

振り向くこともせず……。


(待って‼︎)

(どうして⁉︎ )


言葉も…

何も言えないまま…

ただ某然と…

彼の去って行く足音と、

ドアの閉まる音だけを

聞いていた………。