「あ…来た!」

砂緒里が立ち上がった。

「こっち!」

手招きしている。誰が来たの⁈

(えっ…)

よりによって、この人⁉︎

「すまん。ちょっと遅くなった!…んっ⁉︎ 花穂もいたのか…」
「そうよ。来てもらったの」

椅子を勧められて隣に座る。
ついこの間、とんでもなくお世話になったこの人は、椅子に座って聞いた。

「オレに話って何だよ」

「……実は…あの話、やっと決まって…」

平井君、照れてる。
その様子に、隣の人の大きな声が響いた。

「決まったのか⁉︎ …やったな!おめっとさんっ!」

立ち上がって、平井君と握手している。これだけ見ると、如何にも男の友情みたいでカッコいいんだけど…。

「それでね、ノハラと花穂にスピーチして欲しいの。二人で一緒に」

「二人一緒⁉︎ 」

同時に叫んだ。

「なんで…」

「何だよ、オレとじゃ不服なのかよ」

口尖らせてこっちを向かれた。

「いや、そうじゃなくて…」

不服とか以前の問題。
そもそも、スピーチを頼まれた時点で無理がある。

私が困った顔していたからか、ノハラが急に思い出した。

「そういやコイツ、すげぇド緊張で、もの言えなくなるんじゃなかったか⁉︎ 」

(そう!そうなのよ!ノハラ、あんたエライ!)

覚えてた事に、ちょっと感動。

「こんなヤツにスピーチ頼んで出来るのか⁈ 」

言い方は散々だけど…。

「だから、ノハラにも頼んでるんじゃない!二人一緒にお願いって…」

呆れたような顔で砂緒里を見ている。
ノハラじゃなくても呆れる。私にスピーチなんて。

「花穂が上がり症で、もの言えなくなるのは十分知ってる。だから、ノハラを付けたんじゃない!」
「俺の方が付け足しなのかよ」

むくれてる。今はそれが問題じゃない。

「そうじゃないけど、花穂一人じゃ絶対無理でしょ?だから誰かと一緒に…って考えて」
「それでオレ?」
「そう!陽介君とも相談して、一番適任だろうって事になって…」
「真悟とは、僕も付き合い長いしね」

二人してニッコリし合ってる。ジョーダンきつい…。

「真悟が花穂ちゃんを上手くリードしてくれれば、きっといいスピーチになると思うんだよ」
「…俺がコイツをリード⁈ 」

如何にも面倒くさそう。ノハラでなくても、私でも嫌だし…。