飛んだ失態を見せてしまった。
本来お酒は弱くない筈なのに、空腹で飲んだのが、きっといけなかった。

「津村が心配して、オレに送って行けって言うもんだから、車に乗せたまでは良かったけど、よく考えたら花穂ん家知らなくてさ。
仕方ねーから自分ん家まで連れて来た。外の風浴びてたら、そのうち寒くて起きるだろうと思って庭に置いといた」

ははは…と笑うノハラに、言葉を失くしていた。

いくら酔っていたからと言っても、人を庭に置く?
言い返したい言葉は幾つもあったけど、それを言える程、正気でもなかった。

軍手を丸めると、ノハラは頭のタオルを外してそれを包んだ。

「じゃ送ってくか。花穂、歩けるか?」

そう言われ、ゆっくりと木から体を離す。
一歩、二歩と足を前に出し、歩けることを確認した。

「なんとか…」

顔を上げて答えると、ノハラが感心したように頷く。
歩き出そうと背中を向けられた瞬間、厚のことを思い出した。


私のことを振り向きもせず、決別するかのような、冷たい背中だった……。


ユラッ…

地面が歪み、目に涙が溜まっていることに気づいた。

(こんな事で泣くなんて、絶対まだ酔ってる…)

立ち止まり、目を瞬きさせる。
なかなか前に踏み出せないでいる私に気づき、ノハラが振り向いた。

とっさに顔を背け、泣き顔を隠した。
泣いているのがバレるのも嫌だったけど、何故泣いているのかを聞かれるのも嫌だった。

ノハラは私に近寄って来ようともせず、その場から声をかけてくる。

「ほらっ、帰ろーぜ!」

下を向いたまま、ゆっくりと歩き出すのを、黙って見つめている。
少しずつ近づいて来るのを確認して、向きを変えて歩き始めた。

その足の運びを見つめながら、涙の雫は、地面へと零れ落ちていった……。