2008年3月[前半]続


メーターパネルとオーディオのライトだけが光る暗い車の中で、シオリは、気まずさを感じていた。


ジョージは、ため息か深呼吸か分らない息をして、何か言いたそうだが、ウインドウの外に広がる墨色の海を眺めている。


「それじゃ、帰ろっか。笑」


シオリが、その気まずさを考え、車を動かそうとすると、ジョージは、再び口を開いた。


「俺、ずっと片思いで、それを押し殺して今まで来たんだ。そして、ようやく最近のシオリちゃんは、俺に気があるように思えた」


「うん。。」


「なのに、交際を断るその理由は、俺には理解できないよ。。」


シオリは、自分の抱いた“明確な理由”からの交際拒否にも関わらず、それに納得できていないジョージが不思議に思える。


「何で?」


シオリは、理解してくれないジョージに対し、逆に聞き返した。


「だって、それは千夏ちゃんの恋愛論だろ。それに、その恋愛論自体もオカシイよ」


その言葉に、シオリは益々混乱した。


「いいから、今日は遅いし、もう帰ろ?」


シオリは、この場から早く逃げたかった。また、シオリがそう感じていることに、ジョージは察知した。


「いいからって、そんな簡単な言い…」


「はいはいっ。笑」


ジョージの言葉を、まるで子供をあやすように制するシオリ。


長年の想いを、そんな軽い言葉で挫かれたジョージ。


「わかったよ。帰ろう」


ジョージは、そう言うと、運転席に座るシオリを助手席に替えさせて、すぐさま車を走らせた。