―― ひらがな警察署特殊課・課長室

「どうして殺した?」

 博士が、ゆっくりと鴉に尋ねる。

「アンタも俺を責めるのか?」

 鴉が、博士を睨む。

「お前の縛の能力なら、殺さずに捕獲することが出来たんじゃないのか?」

「俺の能力は、そんな万能じゃない。
 確かに縛の能力は、その名前の通り相手を封じ封印することが出来る。
 だが、誰かの支配下にある場合は残念ながら対象外だ」

「と言うと、やはり柚子は……」

「ああ、察しの通り操り人形さ……
 あの子の過去を見たから間違いないだろう」

「操る……?
 そいつは操作系の能力者か?
 いったい誰が……」

「風舞ってガキだ」

 鴉は、ため息混じりにそう言った。

「風舞が?
 どうしてだ?」

「柚子って子が、そのガキの心を覗いた。
 そこまでは、俺には見えた。
 そのあとはわからん。
 だが、あのガキはハッキリとこう言った。
 『バイバイ柚子さん。
  そのナイフでいっぱい殺してそのまま自殺してね』とな……」

 博士が、顎に手を当てて考える。

「山田 風舞……
 現在は行方不明、それと関係しているのか」

「さぁな……
 そういうのを考えるのがアンタたち上司の仕事だろう?」

「まぁ、そりゃそうだわな」

 博士がうなずく。

「全く上は罰は与えても評価はしない。
 そういうの組織としてどうなんだ?」

「うむ。
 だが、それが組織だ。
 お前が、茂たちを救った。
 俺は、総評価する。
 だが、茂の目の前で柚子を殺したことは評価できない」

「それがアンタの正義か?」

 鴉の問いに博士が答える。

「違う。
 道徳の問題だ」

「立派なもんだな……
 道徳をここで出すか?」

「なにせ道徳の時間だったからな」

「どういう意味だ?」

「特に意味はないさ」

 博士が、ため息をついてそう答えた。