向葵side


「爽牙って誰だよ。」

廊下でもう1度聞く。
諦めたように、ため息をついた。
教えてくれるみたいだ。

「…あたしの彼氏。絶対誰にも言わないで!」

…コイツ彼氏いたんだ。

「どんな奴?」
「え?…あのね――――」

爽牙ってやつの話をしはじめるコイツのこんな顔、初めて見た。
そんな嬉しそうに話すんじゃねーよ…



―――――――――――――――

あれは中学2年の時。


「藤井さんって本当可愛いよな」
「だよな~!おとなしいしちょっと天然っぽいとこあるらしいし」
「まじ?さいこーじゃん――――」
「―――――…」

教室で本を読んでいたら同じクラスの男子たちが話していた。

“藤井夏奈”

そいつはクラスで1番…いや、学校1人気があるといっても過言ではない人気ぶり。
もちろん男子から。

俺は周りの男子たちとは違ってアイツと関わろうなんてみじんも思わない。
女子とは極力関わるのを避けたい。
決してゲイではないが。

その藤井夏奈はいつも本を読んでいるかボケっとしている。
あまり女子といるところを見たことがない。
それは女子にハブられているのか、ただ単に1人でいたいのか。
または他の理由があるのか………俺には分からないが。