無声な私。無表情の君。

体育館へ行くと既に鍵が開いていた。
体育館の中では愛が1人でポツンと立っていた。
確か名札にA組のピン刺さってたよな。
道理で早いわけだ。

「お願いします」

いつもどおり体育館へ入る。
愛は振り返って少しだけ笑っている様に見えた。

「お、流石A組。早いな」

こんな事しか言えない。
不器用過ぎ?
かと言って、岡崎並みに器用にもなれない。
自分なりに精一杯。
それで許してください。

「練習、何したらいいと思う?」

【明日も練習あるから軽目の方がいいと思うよ?】

心配症なのか?愛は。
優しすぎだろ。

「心配してくれたのか?ありがとう。でも、来週試合があるから軽くは出来ない」

「その時には愛も一緒がいいな」とか言ってみたかった。
少しの勇気。度胸。根性。
足りないものが俺をダメにしていく。
けれど時間は進んで行く。

仕方が無いんだ。

時間は進んでいる。
だからこそ次のチャンスも訪れる。

【なら、頑張ってね!】

ニッコリ笑顔で絵に描いたような顔だった。

「……優しい愛も好きだ」

とか強がって言ってみる。
たまらなく恥ずかしいし、自分を褒めてやる。
えらいぞっ!吉川っ!

【ある、ありがとう】

テンパっているのか顔は真っ赤で耳まで赤い。
しかもさ、あるって、あるって言ったぞ。
調子に乗って追い討ちで

「照れてる所も可愛い」

って言ったら、更に照れる。
可愛い。可愛いぞ。
俺がやられそう……。

こんなお菓子みたいに甘い時間はすぐに去って行く。
それがいいのかもしれない。
たまにでいいから、俺たちにこんな時間をください。
誰に願ってるのかわからないけど

[独占欲]

それが俺の心に溜まっていくのが嫌でもわかった。