取り敢えず、教室に戻って彼女の名前ぐらい誰かしら1人は知っている奴がいるだろう。

長い長い考え事をしながら教室に戻った。彼女の事が頭から離れなかった。

教室で授業を受けながら、窓の外ばかりを眺めてしまう。仕方ないだろ。つまらないのだから。

でも、今日はいつもに増して授業に集中出来ない。彼女の顔が忘れられないのだ。

初恋で一目惚れ。ドラマかよ。

バカバカしいことばかり考えてあっという間に1時間目が終了した。

休み時間にすることはただ一つ。彼女の情報を集める。それだけ。

「岡崎」

「ん?康、そっちからって珍しいね」

妙に嬉しそうだった。そんなに話しかけてなかったのか。以後、気を付けよう。

「聴覚障害の人ってこの学校いるか?って言うか筆談する奴」

その程度の情報でコイツがひらめく事はないだろうが、一応可能性を賭けて聞いとく。

「あ〜、うーん……」

やっぱり。聞くだけ無駄足だった。

「知ってるわ、その子」

「本当か?」

感情がそのまま言葉に出た。正直、ビックリした。

「詳しく頼む」

「?」

「ソイツについて」

「いいけど、その知識欲、勉強にも活かせよ」

「うるさいな。無理なんだよ、これが」

やろうと思えば出来るけどな。

「ふーん。まぁ、いいけど。
その子、1年の時に一緒のクラスだったはず。あんま、目立つタイプじゃなかったかな。急に声が出なくなったんだって。二学期ぐらいから」

「名前は何で言うんだ?」

「あ、やっぱり気になる?」

「普通の人は最初、名前から紹介するだろ」

「それがねぇ、覚えてないのよ。これが」

てへぺろ~☆と言わんばかりにそんな顔をしている。同じ部活じゃなかったら殴っていただろう。
大きな溜め息がでてしまった。

「まぁ、いい。ありがとう」

一応、礼を述べてその場を去った。
そして、もう一度メモ帳を眺める。
その時______

「ちょいまち!」

「?」

「名前、書いてあんじゃん!裏、裏!その子だよ」

メモ帳の裏表紙を見る。そこには


《古田愛》


そう書いてあった。