甘い時 〜囚われた心〜

大きなバスルーム。

一人で入るには大きすぎる。

濡れた体を拭きながら、毎回思う…

他のメイドとは違う扱い。

広い部屋も、食事も、お風呂さえも、桜華と同じ扱い…


でも…


【メイド】



白のショートパンツを履き、黒いキャミソールとショートパンツとセットになったパーカーを羽織る。

屋敷全体に暖房が効いているからできる格好。

といっても、一様、冬素材の暖かい服だ。

首にバスタオルをかけ、濡れた長い黒髪を挟み、軽く叩いていく。


ある程度、水分を取り除くと、そのまま、バスルームを出ていく。

雛子は髪を乾かさない。

昔はよく怒られた。


『雛子様!また、ちゃんと乾かしてない!風邪をひかれますよ!』

よく史野が飛んできていた。

もう、ないことだけれど…



「喉渇いちゃった…」

そのまま、キッチンへと向かった。




もう誰もいないはずの場所で、明かりが揺れていた。

(誰かいる…)

カチャカチャと物音がした。

ゆっくりと扉を開けると、そこにはコーヒーを入れている尚人がいた。

「雛子さん…どうされました?」

コポコポとコーヒーメーカーの湯が泡立つ。

「喉が…」

「お水でよろしいですか?」

「はい…」

雛子より、先に大型冷蔵庫に手をかけ、開けていた。

ミネラルウォーターをグラスに注ぎ、雛子に渡す。

「ありがとうございます」

コクコクと飲んでいく。

「はぁ…」

乾いた喉が潤った。

尚人は、その様子を、サンドイッチを切りながら見て、微笑む。

「夜食ですか?」

「はい…桜華様のですが」

半分に切られ、三角になったサンドイッチを皿に盛り付ける。

「まだ…お仕事を?」

夜の12時を過ぎていた。

「はい…年末ですからね…いろいろと忙しくなってきていますから…」

雛子は仕事の事については何も知らない。

わからない。

ただ、「そうですか…」と言うだけだった。