甘い時 〜囚われた心〜

「雛子」

落ち着きを取り戻した晋也は、雛子を見つめた。

「はい…」

今だ、祐希奈の側にいた雛子は、晋也の方へ体を向き直す。

晋也は、ゆっくりと、しかし、毅然とした強い姿勢で雛子を見た。

「雛子…お願いだ!」

晋也は、頭を下げた。

「おじ様?」

「神楽家当主の座を、私に継がせてもらえないか!」

「え?」

いきなりの事に、雛子は答えられない。

「兄さんが、神楽を守ったように…俺を守ってくれたように…今度は私が守りたいんだ…」

頭を下げたまま、強くハッキリと言った。

「雛子…お前達を…守りたいんだ…」

畳に付いた手が強く握り締められる。

すると祐希奈が晋也のように、頭を下げた。

「祐希奈ちゃん…」

「パパの…パパの後は、私が…私が守っていく!勇馬おじ様がパパを守ってくれたように、私が雛子ちゃんを…守りたい!」

二人の言葉に困惑しながらも、言葉を絞り出す。

「ダメだよ…パパは、おじ様を守る為に当主になったのに…」

「だからだよ…今度は…俺が、雛子を守るんだ…」

伸ばされた手が雛子を引き寄せ、抱き締めた。