甘い時 〜囚われた心〜

「覚えているか？まだ当主争いなんてなくて、お前達の間に確執がない頃、よく些細な事で兄弟喧嘩しちゃー、衣頼が笑って仲裁してた…」

百合矢が思い出して顔を緩ました。

「俺達がいくら止めても聞かなかったくせに、衣頼が言うとピタッと止めてただろ？」

晋也も思い出したのか、ふっと顔が緩む。

「覚えてる…一回、義姉さんが止めるのも聞かないで殴り合いの喧嘩になった後、一週間、口聞いてくれなくてさ…兄さんと二人謝り倒した事があった…それからかな。義姉さんが止めたら、すぐ止めるようになったんだ」

懐かしそうに笑う。

「義姉さんが…いなくなったから…俺達、喧嘩したままになっちまったのかなぁ…」

笑顔は、スーッと消え去り、曇っていく。

「衣頼は、最期まで二人を心配してたよ…二人共、頑固で意地っ張りで、自分の気持ちを出す事が苦手だから、悪いって思ってても謝れないって…」

美那が思い出したように言った。

百合矢は、真剣な顔になると、晋也を強く見つめた。

「晋也…お前に話さなきゃならないことがある…」