甘い時 〜囚われた心〜

部屋の前につくと、中から騒ぎ声が聞こえる。

「お、落ち着いて!」

「いやぁぁぁ!」

ガシャーン…


何かが割れる音。

桜華は、半開きの扉に手をかけた。

さっきの看護婦が慌てていて開けたままなのだろう。

扉を開けると、中は花瓶が割れて花が散乱、びしょ濡れになっている。

看護婦が泣きわめく雛子にオロオロしている。

泣きわめく雛子を見て、なぜか、顔が緩んだ。

生きてる…

泣いてる…

ゆっくり雛子に近づく。

その頃、美那の手を引いて走ってきた百合矢が病室に着いていた。

雛子が目覚めたのを確認してホッとする。

泣き崩れる雛子の前にしゃがむと、ソッと抱き締めた。

「いや…いやぁぁ!」

それでも暴れる雛子。

「雛子…落ち着いて…もう大丈夫だから…」

「いやぁ…赤ちゃん…赤ちゃん!」

「雛子…」

「赤ちゃんは!?血が…あんなに…」

ガタガタと震える雛子を抱き締める。

「大丈夫…大丈夫…」

「うわぁぁぁ…」

「体に悪い…もう泣くな…」

「私が…ちゃんと…気を付けなかったから…」

ごめんなさい…と泣き謝る雛子の顔を手で包み込んだ。