甘い時 〜囚われた心〜

「まだ、目が覚めないのか?」

病院の談話室で缶コーヒーを片手に百合矢が聞いた。

「あぁ…目が覚めたら、連絡するよ…仕事溜まってるんでしょ?行ってください…」

疲れきった顔。

桜華は仕事を尚人に任せ、雛子に付きっきりだった。

「お前も一度帰ったらどうだ?風呂にも入って、少し寝ろ…」

百合矢の言葉に小さく首を横に振る。

「寝てるよ…病院のシャワー借りてるし、服も持ってきてもらってる。大丈夫です…」

「…そうか…じゃー、雛子ちゃんの顔を見て、帰る事にするよ…」

二人の会話を美那は静かに見ていた。

三人は談話室を出て、雛子の部屋に歩いていった。

すると、前方から、看護婦が大慌てで走ってくる。

「桐生院さん!」

はぁはぁと息を切らし、絞り出すように何かを言っている。

「え?」

「はぁはぁ…で…すから、…お目覚めに…はぁはぁ」

「!」

気づけば、桜華は走り出していた。