「ざるそばー」

「んぅ?」


 襖を開けながらそばが中にいるざるそばに声をかけた。


「あれ。もう起きてたの?」

「あ?ああ・・・」


 敷布団に正座をしているざるそばを見て、そばは驚いたように襖を後ろ手で閉めた。


「・・・ホント?」

「・・・あー」

「・・・ウソだよね」

「・・・あー」

「はい。了解しましたー」


 正座をしているざるそばの目の前に仁王立ちしたそばは、呆れ顔で目を伏せた。


「起きてー」

「・・・起きてるー」

「起きてないから」

「・・・起きて、る・・・」


 と、言ったかと思うと、コクン、コクンと船をこぎ始めたざるそば。


「ほら。しゃんと立って」


 うどんの時同様、腕を引っ張り無理やり立たせると、寝巻の着流しの裾をパンパンと払い、しわを簡単に伸ばした。


「はい。着替えてよ」

「・・・おー」


 目を閉じたままのざるそばに、着替えを渡したそばは、テキパキと敷布団やらタオルケットやらをキレイに畳み始めた。


「兄貴ー」

「ん~?」


 上から降って来る声に反応し、そばが上を向くと、


「今から飯食やいんだよな?」

「・・・そうだけど」


 着流しの前と後ろを逆に着たざるそばが、まだ眠そうな顔で帯を両手に握っていた。


「まず、顔洗っといで。それから、着流しの前後確認して、帯を結びなさい」

「・・・洗面所、どこだー」

「はいはい。一緒に行きましょねー」


 うろうろする弟の腕を引き、そばは洗面所を目指した。