トコトコと台所から帰って来た冷麺は、ちゃぶ台に手を付きながら座った。


「で?」

「いいってさ。・・・なんか、顔赤かったけど」


 溶け始めた氷を一個噛み砕くと、冷麺はちゃぶ台に突っ伏して言った。


「そうめんのヤツ、うどんのこと好きなんだぜ」

「はあっ?!?!」

「語弊があるだろ、その言い方」


 興味なさそうに冷麺が言うと、うどんは唾を飛ばして目を見開いた。ざるそばもあまり興味がなさそうだ。


「ゴヘーってなに」

「言葉の使い方が正しくねえってこと」

「なんで」

「『好き』、じゃねえだろ。あの場合」

「『あの場合』ってなんでぃ?!どの場合だよ!あれか!『ライク』じゃなく、『ラブ』ってことかぃ!?!」


 状況が上手く把握できていないのか、うどんは口をパクパクさせている。


「じゃなくて」

「落ち着け、うどん」

「落ち着いてられっかよ!」

「そうめんの『好き』はライクでも、ましてやラブでもねえって」

「じゃあなんだよ!なんの『好き』なんでぃ!?」

「あ・・・、憧れ・・・です、よ・・・」


 前掛けで手を拭きながら、そうめんが台所からやってきた。その顔は、まだ赤いままだ。台所と食卓の境になっているのれんをくぐり、そうめんは、ちゃぶ台の前に座った。


「知らなかったん、ですか・・・?」

「お、おう・・・よ・・・」


 なんだ、この雰囲気は。

 まるで見合いでもしているかのような雰囲気ではないか。