世界は変わらない (A・T)









 しかし、そんな希望はすぐに打ち砕かれた。



 霊安室の冷たく感情のない空気の中、ろうそくの赤い炎がゆらゆらと揺れていた。








「こちらが前川昇さん、その隣が前川亜由美さん、そして……」


 そこから、なんの言葉も聞こえなくなった。


 ただ、目だけは捉えていた。

 青白い顔で横たわる、父と母。


 別人のように見えたけど、間違いなくあたしの両親だった。

 白い布が、次々と取られ、見覚えのある顔が揃った。



「うっ……」


 どうしようもない悲しみが、内から溢れて、涙として落ちた。


 この状況を耐えられる人が何処にいるんだろうか。

 あたしは、ただこぼれ落ちていく涙を止められず、口を覆うことで必死に隠そうとした。


 崩れるようにその場に座ったあたしを、山上と林はただ、見つめる。

 坂野刑事も中橋刑事も、みっともない姿のあたしを見つめていた。



 でも、中橋刑事はすぐに口を開いた。




「死亡の理由を述べますね……」


「……なん、で」



 中橋刑事の話なんて、聞いてられなかった。


 現実を押し付けられたあたしは、分かっていたのにどうすることも出来なくて。

 今にも崩れそうなのに、ゆっくりと立ち上がったあたしは、お母さん達に近づく。