そして、出発の時。
東京へ出る人は結構いるみたい。
皆、田舎に留まるのは嫌なんだろう。
あたしも同じ。
「…璃子!」
振り向くと、やっぱり篤人だった。
低い聞き慣れた声。
すぐに分かった。
「…篤人」
「…あれからお母さんとは話した?」
「…ううん」
「…そっか。行かなくて平気か?」
「うん。今は話したくない…」
「…うん。無理することない」
篤人はいつもあたしのことを心配してくれる。
…何でそんなにも優しくしてくれるの?
…甘えちゃうじゃん。
「…篤人!」
「…親父⁉︎」
こっちへ走って来たのは、篤人のお父さんだった。
篤人の両親は中学一年生の時に離婚して、それからはお父さんと二人で暮らしていた。
「…これ、持ってけ」
「…いいよ、親父」
お父さんは篤人にお金を渡していた。
…篤人が居なくなったらお父さんは一人で生活していくんだよね。
「大した額じゃねぇよ。…頑張れよ」
「…うん。ありがとう」
二人の様子を見ていると、少し胸が痛んだ。
お母さんは、あたしのことをどう思っているんだろう?
何も考えずに自分のことを決めてしまったけど、本当は何か言いたかったのかもしれない。

