この人にも隙を見せちゃダメだった。
「私知ってますよ、あの子が誰か」
自慢できることじゃないけど、色んな子と付き合ってきたわけで。
思い出してみればこういうタイプの子もいた。だから接してれば何となく分かってくるんだ。
「咲良茉央さん、ですよね。篠原先生が初めて担当したクラスの子」
周りが見えなくなるタイプ。
優しいって評判で、最初は適度に距離を保って接してたんだけど、俺のせいでこんなことになってしまった。
縮まった距離の中でこの人は、どんどん俺だけを見るようになった。
「…見間違いじゃないですか?」
それは多分俺だけが気づく小さな変化で、生徒や他の先生には全く変わりない今までと同じ保健医なんだ。
こういう子、いたな。
俺に彼女がいてもお構いなしに気持ちをぶつけてきて、もちろん断るけど、それでも何度も来る子。