眠れる森の彼女

***


使用されていないのをいいことに体育館に侵入した俺は、いつの間にか緞帳に包まれ、微睡みから熟睡へと心身を預けていた。


俺、疲れてんのか?


緞帳越しとはいえ、背中を固い壁に預けていたから、体のあちこちが痛む。


しかも6限までサボっちまったし。


無人の体育館を出ると、

「お」

傍の水道場に吏那の姿を見つけた。


吏那を視界に入れただけで胸の奥に電流が走ったような感覚が発生する。


並行して気づく、違和感。


涙を流しているわけじゃない。


けれど、吏那は泣いている。


心が。


「──どうした? 可愛いお嬢さん」