眠れる森の彼女

ま、そうか。


いつも吏那を迎えに来ているのは、大人の男だし。


「自販機、あたたかい飲み物がおかれるようになったんですね」


吏那は俺の手の中のココア缶に目を留めた。


「やっとだな」

「おいしいですか?」

「ああ」

「甘いですか?」

「苦かったら飲まねぇな」

「もうココアが美味しくなる季節なんですね」

「ん? 味は年中変わらねぇだろ」

「それはそうなんですけど……そうじゃないんです。椎名先輩たまに天然ですよね」

「は?」


こんな取り止めのない話は出来るのに、吏那にあの男のことは聞けない。


気になってないとは言えないのに何故聞けないのか……。


そして、吏那が笑っていても、常に何かに怯えているような態度でいることも口にできない自分がいた。