俺は母親に弁当を作ってもらった記憶なんて一度もない。


遠足の時、運動会の時、事あるごとに俺だけがコンビニ飯。


ガキの時はそれが惨めで、周りの奴が羨ましくて仕方なかった。


こんな情けなくて弱い記憶、とっくに忘れたと思っていたのにな。


俺が感傷的になるなんて馬鹿げてる。


秋冷のせいか、吏那のせいか……。


「椎名っちー! さつきちゃんがネクタイピンつけてたけど、椎名っちじゃないよな?!」


休み時間、睡眠に興じようと思っていた俺の元へ各務が大声を出してやって来る。


何でコイツはこうも声のボリューム調整が狂ってるんだ。


「あ?」