眠れる森の彼女

それをごまかすように、吏那の頭を軽くポンと叩き、

「じゃあな」

と先に背を向ける。


吏那と関わると感情の処理がすんなりといかなくなる。


俺の機嫌で怖がらせてどうするんだよ。


吏那の頭に触れた右手だけが左手と比べてやけに熱を帯びていた。


バイト中も吏那のことが頭を占める。


ミスもしなかった。
そつなく仕事もこなしたし、女性客から渡されたメールアドレスがかかれたコースターもやんわり流した。

なのに、

「今日の万威は何処か心ここにあらずだったな」

と猛さんに評されてしまった。