眠れる森の彼女

「何しやがんだよ」


イラッとしながら振り返って、目を見開いた。


俺のシャツを掴む小さな握り拳の犯人が吏那だったからだ。


「……椎名先輩、少しだけ時間ありますか?」

「あ、ああ」


強い意志のこもった目だったが、どこか緊張したように表情が固い。


吏那は生徒の往来が少ない来客用の出入口付近まで俺を連れて来た。


こんな人目を避けて、俺はシメられでもするんだろうか?


思いもよらなかった吏那の登場に、俺の鼓動は不規則に乱れていた。


「すみません。こんなとこまで連れてきて……」

「いや、別にいいけど」