眠れる森の彼女

机の間を縫って吏那に近づいていく。


教室中、いや廊下からも俺に一点集中している数多の視線はあえて無視した。


「え……?」


吏那は透き通るような白い肌を桃色に染め、子犬のように黒目がちな瞳を頼りなく揺らして俺を見ていた。


椅子から立ち上がったのは育ちの良い証だろう。


吏那の足は安っぽい黄緑色のスリッパが履かれている。


この集団生活の中で、自分だけ違うってことが高1の女にとって、どれだけいたたまれないことか俺には推し量りきれない。


煮え滾る怒りを押し込め、あくまで冷静でいるよう努めた。


「“自販機横のごみ箱“に上履き忘れるって、吏那はどれだけ抜けてんだよ」