眠れる森の彼女

エンジの上履きは1年のもの。


サイズの小ささからいって持ち主は女子だ。


自分で捨てた訳ではないだろう。


くだらない幼稚なイジメに眉を潜めたが、普段の俺だったらそのまま無視して見ない振りをしたはずだ。


見過ごせなかったのは、踵の部分に律儀に書かれた名前のせい。


右に“紅月“
左に“吏那“


腹の底から込み上げる感情。


それは怒りだと言い換えてもいい。


吏那の上履きをごみ箱から拾い上げ、行き先を変更する。


1年の教室が連なる廊下を歩いていると、紺の上履きの上級生が珍しいからか視線が俺に集まった。


「うそっ?! 椎名先輩じゃない!」

「こんな近くで初めて見た! 超かっこいい!」