無性に、吏那が遠く見えた。


話の種もない。


何か繋がりがあるわけでもない。


吏那はその他大勢の名前も知らない生徒と何ら変わらりはないわけだ。


あー、くそっ。
訳もなくいらつく。


いや、訳はあるのか?


吏那に“その他大勢“にされてんのが。


意味不明な思考を放棄し、吏那から視線を外そうとして……させてくれなかった。


吏那は校門の前に横付けされた黒い高級車の助手席に吸い込まれるように乗り込む。


車の持ち主は隙のカケラもないスーツ姿の若い大人の男。


吏那とその男の周りだけ上質なクラシック映画のワンシーンのように圧倒的に美しかった。