眠れる森の彼女

結局、今日も来なかった。


吏那が美術室を訪れたことは一度もない。


別に約束してるわけじゃねぇし、本当に不注意で教科書とノートを落としただけかもしれねぇし。


ただ吏那の目が、誰かに……俺に助けを求めていたような気がしたなんて。


「俺は馬鹿か」


思い上がりも甚だしい。


俺には関係ねぇだろ。


考えるな、考えるな。


自分に言い聞かせ、放課後になり、いつものように逸早く教室を出ようとする。


「椎名っちー! 今日もバイトかー?」


各務が俺の背中に声を放ってきた。


地声がでかいから、教室中に響く。


「おー。また明日な」