眠れる森の彼女

東京は不夜城だと言うが、どのオフィスビルもまだちらほら窓に明かりが灯っている。


走り出して早々に宗志さんは車を停め、何も言わずに一人だけ降りてコーヒーショップへ入ってしまう。


「甘そうなものを選んできた」


と、俺に容器を手渡す。


自販機の缶コーヒーじゃないところが、何とも吏那の兄らしかった。


俺の好みまで把握されてんのか。


「金は払います」

「いらない。俺が誘ったんだ。むしろ安すぎるくらいで万威くんには申し訳なく思っている」


この人に金を押し付けたところで受け取らないだろう。


コーヒー片手にハンドルを握る宗志さんの横顔は大人の緩さと余裕さを放出している。


「いただきます」