眠れる森の彼女

遠目では見たことがあったけど、傍で見ても美しい男だった。


凛々しく隙のない完璧な出で立ちは、癒し系でどこか危なっかしい吏那とは対極的だ。


シャドウストライプのスーツを恐ろしいほど完璧に着こなした吏那の兄は目線が同程度の俺を射るように見つめている。


「そうですけど」


答えるまでに間が開いてしまった。


吏那の兄が俺のバイクの前で待っていると誰が予測できるだろう。


「待ち伏せしてすまなかったな。俺は紅月吏那の兄で宗志(ソウシ)だ」


回答を待つ前から、俺が椎名万威だと確信はあったんだろう。


吏那の兄──宗志さんがなぜ俺を知っているのか……。


「少し万威くんと話がしたい。これから時間を作れるか?」