眠れる森の彼女

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昼休みに訪れた何日かぶりの美術室。


相変わらず顔料の匂いがきつい部屋だった。


開放した窓から堂々と忍び込んでくる風は肌を切り裂くように冷たい。


やつらの言葉を裏付けるように吏那は来なかった。


次の日も、また次の日も。


吏那の存在自体が幻だったんじゃないかとさえ思う。


体の芯が空洞になったような不安定な感覚のまま、時間だけがぶれないで過ぎ去っていく。


俺は廊下の窓から木枯らしが吹き荒ぶグラウンドを見下ろしていた。


これから体育が始まるのか、体を揺すりながら、笑いあって、じゃれあう女子たち。


吏那は居ない。何処にも。


いつも俺は無意識で吏那を探していたんだと。


理屈じゃなく俺の神経細胞から吏那を求めてる。


「椎名っ!」