眠れる森の彼女

突き動かされた仄暗い感情に迷いは微塵もなかった。


「椎名先輩……!」


俺は1年1組の教室を目指して大股で進む。


──許せねぇ。


俺から迸る異様なまでの殺気に、廊下を過ぎていくやつらは硬直しといた。


「椎名先輩! 何する気ですか?!」


俺を止めようと、後ろから必死について来る吏那。


小犬が足元にじゃれついてくるようなもので、何の障害にもなりはしない。


「椎名先輩……!!」


吏那は両手で俺の腕にしがみついてきた。


さすがに足を止めざるをえない。


「私、大丈夫ですから……」


吏那は涙を拭うこともしないで、俺を見つめた。


「俺が大丈夫じゃねぇんだよ」