眠れる森の彼女

吏那は俺を見上げて、柔らかく微笑んだ。


「ちゃんと、私、大丈夫です。
ありがとうございます。椎名先輩は優しいです」


鼓動が静かに加速する。


どう反応すりゃいいのかわからない。


『そんなことねぇよ』『別に』『うぬぼれんじゃねぇよ』


照れ隠しの幼稚で乱暴な台詞ばかりが浮かんでは消える。


それらは全て飲み込んで、

「吏那、はぐれんなよ」

人混みを言い訳に吏那の手を握った。


「……はい」


大人しく握り返してくる俺に比べて小さな手。


冷たい吏那の手が俺の体温と溶けあっていく。


文化祭なんて何が楽しいのかと思ってたけど、間違いなく俺は満ち足りた気持ちになっていた。