吏那を抱きしめてぇと。


今にも溢れ出しそうな衝動を押し止めるのに苦労していた。


「俺は各務が吏那に慣れ慣れしくしてんのに、いらついてただけ」

「……え? 私、あの各務先輩って方とはちゃんと話もしたことなく……」

「それもアウト」

「?」


「何が?」と問いかける代わりに吏那はこてっと首を傾げる。


ああ。
顔が熱くなってきやがった。


「アイツの名前、吏那の口から出てくるだけで、何か癪に障んだよ」


自分でも何を言ってんのか……。


決まりが悪くて、視線を横に流す。


かっこ悪……。


「……椎名先輩……」


戸惑いがちにシャツを握ってきた吏那。


俺が吏那を見下ろした瞬間、黒に染まり切らない薄暗い空に一つの花火が咲いた。