眠れる森の彼女

「やらん。絶対に俺のマリちゃんは誰にもやらん!」


まだマリエは2歳だ。


これで本気で言ってるから質が悪い。


猛さんは娘のこととなると冗談が通じなくなる。


「はっ! また万威にはぐらかされちまってるじゃねぇか!」

「今更」


ここでバイトを始めて1年は越えた。


学校優先の使い勝手の悪い高校生を雇い、毎日メニューの違う賄いまで食わせてくれ、

『もう使わねぇから』

とバイクや靴まで俺にくれる面倒見のいい猛さん。(服は背丈の違いで無理だった)


それに感謝できないほど、俺も最低な人間じゃない。


客に必要以上の愛想は使えねぇけど、猛さんに恩を仇で返す真似はしていないつもりだ。


のらりくらり猛さんから逃れている内に俺も気が紛れた。


──と思ったのだが。


翌日の昼休み。吏那は美術室に来なかった。