ザザ…ッ……

揺りかごのように、規則的な…

ザザンッ………

…あぁ、波の音か………

…ここは どこだろう……?

目を開けると、まぶしい光が

僕の目をついた。


「気がついた?」

僕の耳に、心地よく響く、

鈴のような声。

(女性の声か…)

頭のなかに、もやがかかったようだ。

今一つ、ボーッとして…

僕はいったいどこにいるのか?

何をしていたのだろうか…?

また、まぶたが落ちてきた。

(まぶしい…)

「こーらっ!寝ないでくださいっ」

そう言いながら、僕の視界に

人影がみえた。

無理矢理、まぶたをあけてみる。

「…っ!」

物凄く綺麗な顔立ちをしている。

鼻筋が通り、目は明るい茶色。

そのまわりを、たくさんの長いまつげが

取り囲んでいる。

艶やかでふっくらとしたくちびる…

薄桃色の頬…

僕の見立てでは20歳ほどだろうか。

しばらく見とれていると、

その女性が言った。

「目はしっかり覚めましたか?」

素敵な微笑みだ。

まるで彫刻のよう…。

彼女は、僕が起き上がろうとするのを

助けてくれた。

「…っ、…。」

声がでない。喉がものすごく

乾いている。

すると、その女性が僕に

男の手のひらほどもある二枚貝の片方を

差し出した。

透き通った水が張られている。

僕はそれを一気に飲み下した。

「ありがとう。君が、助けてくれたの?」

「いいえ。あの子よ。」

女性が示す先に目をやると、

これまた美しい女性がいた。

青く透き通った、深海を思わす瞳、

白い肌、ほどよくふっくらとした頬、

頬を取り囲む、瞳とは対照的な、

炎のように赤い髪。

そして 瞳と同じ色の、光輝く鱗…

僕と同い年くらいだろうか。

綺麗な娘……

……鱗?!!!!足がない!!!


僕の視線に気づいたかのように、

最初の女が言った。

「私たちは人魚よ。」

元来足があるはずのその場所には、

魚のような鱗をもった尾ひれがある。

ぱたぱたと揺らす様子に、

太陽の光が跳ね返ってキラキラと輝く。

伝説上の生き物ではなかったのか…


「あの、ありがとう…。」

海の目の娘は、こくりとうなずいた。

「えっと…君たちは…」

「私たちは、ここの近くの海に

住んでるのよ。

私はドルチェ、あの子はガランテ。

昨日の嵐で、貴方方の船が転覆するのを見ました。

貴方だけは助けることはできたのだけど…

他の方はダメで…

波が高すぎたの。

あっという間に、

のみ込まれてしまったわ。」

最初の女が申し訳なさそうな顔で言った。

「いや、その…

助けてくれたことに、感謝する。

僕も仲間も、みな最期だと思っていた…」


そうか、転覆したのだった…

波に飲まれて、薄れていく意識のなかで、

誰かに腕を捕まれたのだった。



白い砂浜と、太陽の光と、

一人の男と二人の人魚との

不思議な時間だった。