小百合さんに、慣らしで使った広告の裏の字を見られそう呟かれた。
「はい。よく父に言われてました。力強さがないと」
細くて弱々しくて、字にまで自信がないのが映し出されているらしい。
「繊細で、儚げな字だけど美しいと思うわよ。桔梗さんなんて、あっちへふらふらこっちへフラフラ、おまけに汚しちゃうし」
「あ、小百合さん酷い!」
暖簾の向こうの調理場で、餡を味見していた日高さんが顔を出した。
「幹太の方が酷いのよ、全部太い。止めも羽も分からないの。太い眉毛みたい」
「うるせーぞ」
二人のやりとりに、小百合さんが着物の袖で口元を押さえて上品に笑う。
私も持っていた御盆で口元を隠すと思わず笑ってしまった。
楽しくて暖かい仕事場だったのは恵まれていたかもしれない。
多少の影口はあれど、あれぐらい慣れているし。
居心地が良くて、不意に泣きたくなるそうな哀愁を感じてしまう。
――夢から覚めても、笑えている。
それだけで私が満足してるのは、単純で浅はかなのかもしれないけど。



